2011年4月29日、英国皇室ウィリアム王子とキャサリン妃(ケンブリッジ公爵夫人)の結婚式が、ロンドンのウェストミンスター寺院で行われました。歴史ある宮殿と街並みを舞台にした壮大なロイヤルウェディングは、世界中の人々を熱狂させ、しばし夢の世界へと誘いました。
騎馬隊を伴い豪奢な馬車でパレードするプリンスとプリンセス・・・純白のウェディングドレスをまとうキャサリン妃に、どれほどの女性が心奪われたことでしょう・・・
そして、およそ170年前にも、同じ純白のドレスを身にまとい、ウェディングに臨んだ一人の女王がいました。若干18歳の若さで即位したヴィクトリア女王その人です。約64年の長きに渡り英国を統治し、歴史上もっとも豊かな繁栄の時代へと導いたヴィクトリア女王は、アルバート公と結婚し「平和な家庭の象徴」として、英国王室及び国民の理想の家庭像を示しました。
その英国の黄金期、ヴィクトリア時代を象徴する究極の装飾家具「ヴィクトリアン マホガニーセティ」。
当時、産業革命による経済の発展は人々の生活に大きな変化をもたらしました。新興の富裕層の台頭に併せて、あらゆる分野で商品が量産されるようになり、1851年の国際万国博覧会(水晶宮博覧会)は、まさにその爛熟度を示す貴重な記録が多数残されています。
家具のセクションでは、当時の優れた職人、デザイナーによる最高の作品が展示されました。入場者数は600万人以上・・・そこで目にした夢のような数々の展示品に人々は憧れを抱き、次第に量産品として市場に出回るようになります。そのような時代の中でも、一握りの富裕層は、自分たちの好みにあった特別な家具を注文しました。
今回ご紹介するヴィクトリアン セティも、究極の装飾家具としてオーダーされたものでしょう。オブジェのような気品溢れる佇まい、そしてエレガントなデザイン・・・当時の栄華を彷彿とさせる気位の高さを感じさせます。
ヴィクトリア時代は、その家のステイタスの証として、内装の趣味の良さ、家具、調度品が大変重要な意味を持っていました。このセティもデコラティブアート、美術作品として扱われていたことをうかがわせる大変繊細な作りになっています。貴族や上流階級のお屋敷にそっとディスプレイされていたことでしょう。
背もたれの三連のカルトゥーシュの装飾、ここにはリボンとマザーパールの小花の象嵌細工が施されています。カルトゥーシュの特徴をリアルに表現している凸状の表面は、マホガニー材の薄い板を型にあてて盛り上げ、さらに象嵌を施すという、職人の高度な技術がうかがえます。マザーパールは高級家具のみに用いられる装飾であり、現代でもマザーパールを用いたアンティーク家具は、コレクター垂涎の逸品として希少価値があります。
漆黒色に近い上質のマホガニー材には、アカンサスの躍動的な彫刻がより重厚感を与えています。贅沢に削りだされた足元には、高級家具に特有のキャスターが付けられています。アカンサス柄の張り地は当時からのものでしょう。大変シックな雰囲気がマホガニーのダークな色味と調和し、上品な雰囲気を高めています。
このセティからどのような光景が思い描かれますか・・・?
ヴィクトリア女王を頂点とした華やかなりし大英帝国の時代に生きた貴婦人が、そっとこのセティに腰かける優美な姿でしょうか・・・
上流階級の人々の優美な夢の世界が、まるで映画のワンシーンのように蘇ってきます。黄金期と呼ばれるに相応しい、大英帝国によって生み出された装飾芸術、珠玉の逸品をどうぞご堪能ください。