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リエージュダイニングルームセット<br />
1870年頃 ベルギー<br />

リエージュダイニングルームセット
1870年頃 ベルギー

リエージュ。オランダ、ドイツの国境近くにある、古い教会と石畳の街。オランダ、ドイツの国境近くに位置するため、「西ヨーロッパの十字路」と呼ばれたベルギーを代表する交易都市。華やかな国際都市であった反面、18世紀末までリエージュ司教領として司教が都市を支配した学術都市でもありました。聖職者や豪商達が数々の教会を建築させ、ヨーロッパ中から集まる建築家や装飾技術者は、リエージュに独自の文化を創りました。その影響から、この街からは優れた木彫職人や家具職人が排出されました。

今月のおすすめは、1870年代リエージュ製ダイニングルームセットです。ダイニングテーブルセット、ツインショーケース、ミラー………ダイニングルームに設えられた一式が、そのまま見つかりました。
ベルギーレースの繊細さを彷彿とさせる、見事なデザインと手仕事。その格調高いたたずまいは、言葉を失います。
それでは細部を見ていきましょう。

  • 幅150センチの堂々たるダイニングテーブル
    6人掛けです。当時のヨーロッパ上流の邸宅でのパーティには、主に6人掛けのテーブルが用意されていました。 リエージュ家具の特性が全て表現された意匠の数々が見られます。側面には永遠の美の象徴、ヴィーナスを表す貝殻模様が見事な彫刻で施されています。

  • 跳躍する山羊の足を模したと言われるカブリオレ・レッグの野性的な4本の脚先には、馬の蹄先型のフーフ・フッド。100ミリは越す大きさの角材から彫り出されています。根本、足先には端正なアカンサスの彫刻がデザインされ、テーブルの風格を際立たせています。進歩的な国際都市であったリエージュの法律は、修学・就労など外国での活動に制限を課しませんでした。結果市民レベルの自由な知識・情報の交流が生まれ、リエージュ家具は、フランスのルイ16世スタイル、ロココ、新古典主義など様々な要素を取り入れます。多面的な美的様式は、やがて一つにまとまって優美で豪華な個性を持ち始めます。リエージュ家具は次第にヨーロッパ中で評判を呼び、各国の王侯貴族、ブルジョワの邸宅には、タペストリーや皮革に描かれた絵とともに、リエージュ家具が欠かせない要素として絢爛豪華に飾り付けられました。

  • フーフフッド
    古い様式の家具の足部分装飾デザイン。鹿、あるいは馬の蹄先を写実的に彫刻したもの。起源は古代ローマと古代中国の二つの説があります。本作品のように、17世紀末にかけて流行した、カブリオーレ・レッグの足先に用いられます。この作品では、彫刻が細かく装飾性が豊かで、リエージュ家具の特徴を反映しています。

  • リエージュのマリア信仰
    リエージュの旧市街ではマリア信仰が特に篤く、家々の壁にはマリア像を祀った祭壇が多く見られます。豊穣と慈愛の象徴であるマリアに対する信仰は、カトリックの厳格な教義からは離れ、土着的な人々の魂の支えです。毎年8月15日(聖母被昇天祭)には町を挙げての盛大なお祭(le 15 Août)が開催されます。

  • リエージュ公爵
    現ベルギー国王アルベール2世は、即位前「リエージュ公爵」の称号を持っていました。リエージュ公の称号は、1795年に消滅したかつてのリエージュ司教領に敬意を表すとともに、第一次世界大戦下、ドイツ軍と勇敢に戦ったリエージュの勇猛な防衛を記念したものです。

  • ベルギーの芸術
    17世紀、ピーテル・パウル・ルーベンス、アンソニー・ヴァン・ダイク、ロヒール・ファン・デル・ウェイデンを輩出したベルギーは、芸術の中心地となります。バロック期のイタリアで、宮廷画家や肖像画家として活躍した3人の画家は、帰国して美術学校で教鞭を取り、イタリアの芸術をベルギーに持ち込み、さらに昇華させました。

  • ベルギー人の気質
    ドイツ・フランス・オランダ・ルクセンブルグと、それぞれ強烈な自己主張を持つ国々に四方を囲まれたベルギーの人々は、よく「喧嘩の仲裁が上手」と言われます。使われる言語も、フランス語、ドイツ語、フラマン語と多岐に渡ります。西ヨーロッパの交易中心地として繁栄する一方、常にヨーロッパ列強の支配下にあった長い歴史は、自然と人々を勤勉で商才に長けた性質に変えさせたのかもしれません。

  • 丹精込めて作られた椅子
    長い背もたれ部分は、背中沿いにゆるりと傾斜しながら優しく首筋までに達し、ゆったりと腰かけて食事を楽しめるようになっています。背もたれ部分とそれに続く曲線的な足部分には、継ぎ目がありません。幅が広くて分厚い木材から、1本ずつ削りだされたものだということがわかります。前方ばかりでなく、後方の脚にもカブリオレ・レッグが施され、後ろ座枠にも彫刻が加えられる丁寧な手仕事。そして背もたれ頭頂部の華麗な彫刻。貝殻を、地中海の波が取り巻いています。特筆すべきは、塗装技術の素晴らしさです。これほど年月を経ると、艶が失われ、木の地肌が出てくることが多いのですが、この椅子には全く消耗された形跡が無く、極めて美しい状態が保たれたままです。贅沢な材料と高度な製作技術、そして見えない部分にまで施される手仕事。この作品が、かなりの規模の邸宅に置かれていたことが推察できます。

  • 柾目
    原木から板を切り出す場合、どの部分を切り出すかによって、木目が異なってきます。年輪の目を断ち切るように年輪に対し直角に切り出した板の表面に現れる木目は、柾目と呼ばれます。収縮や変形が少なく強度に優れ、原木から2-3割程度しか取れないので、大変高価です。本作品はこの柾目のオーク材が使われています。

  • 繊細な頭頂部と扉の浮彫細工の、ツインのショーケース
    浮彫とは、平面上に形象を盛り上げ、浮き立たせる彫塑技法。頭頂部の華麗なロカイユに、極めて濃いルイ16世様式が感じられます。また高度な木彫技術は、リエージュ家具の特性の一つです。0.5ミリ単位で加えられる入念な手作業。「葉脈が見えるほど正確に彫らなければ、植物は生きているように見えない。」というリエージュ伝統の教えを忠実に行使しています。透かし彫刻の開き戸は、多角的にガラスがはめ込まれ、棚に飾る自慢の品々をより美しく演出します。

  • 木彫技術は、教会内の装飾製作技術とともに発展しました。豪華な彫刻が施された中央祭壇や聖歌隊の座席、机、ドアに加えられる聖人や天使の彫刻。全て職人たちの技術を育てていったのです。ベルギーでは、1614年、アルバート大公が宗教抗争によって破壊された教会装飾の大規模な修復事業に尽力しました。この時研究された修復技術は、家具製作の技術にも活かされるようになり、益々リエージュ家具を洗練させていきました。 リエージュの卓越した彫刻技術は、18世紀に頂点を極めたといわれます。

  • 奥行きが長い引出
    底板まで無垢材が使われています。ずらりと見事な銀のカトラリーや、富の象徴である贅沢なリネンが並んだことでしょう。取手には、ループ・ハンドルと呼ばれる流麗な金具が取り付けられています。 下方開き戸、左右対称にロマンティックなハート形にくねるロカイユ。家具の印象をさらに優雅に見せます。木肌の所々に見られる虎斑。金色の、獣の毛のような模様までも、レースのように美しい彫刻を引き立てています。 この家具全体を見回して気付くことは、使われている木材に全く節目が見当たらないことです。節目を避けるには、多くの木材が使われなくてはなりません。材料を深く吟味することは実に贅沢な選択ですが、年月とともに木材を変形させてしまう節目を使わないことで、頑強な構造と耐久力を保持する家具を製作できるのです。

  • 贅沢の極み・巨大なミラー
    精緻な彫刻がなされた外枠が、絵画の額のように華やかな場面を映し出したのでしょう。
    ヨーロッパの英知イタリアルネサンス、華麗なフランスのロココ………国際都市リエージュは、様々な美のエッセンスを吸収して独自の典雅なデザイン様式を構築しました。その最高の美を集結させた、リエージュが誇るダイニングルームセット――リエージュが育んだ卓越した伝統と技法が、ここに証明されます。