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ナポレオンⅢ世 ウェッジウッド陶板ショーケース<br />
1860年代 フランス ローズウッド

ナポレオンⅢ世 ウェッジウッド陶板ショーケース
1860年代 フランス ローズウッド

ジャスパーウエア・・・1774年、イギリスの陶工ジョサイヤ・ウエッジウッドが生み出した炻器。古代ローマの遺跡から発掘されたカメオガラスの壺「ポートランドの壺」に魅せられたウエッジウッドは、4年の歳月をかけて陶器で再現することに成功します。

淡い色の背景に浮かび上がる、純白の神話が描かれた美しい石膏細工のような優美な装飾は、ヨーロッパにセンセーションを巻き起こします。ジャスパーウェアは、プレートやティーセットといった食器や、家具やピアノ、マントルピースなどを装飾する陶板につくられ、各国の王族を虜にしました。特にフランス国王ルイ16世と王妃マリー・アントワネットは、ジャスパーのメダイヨンで室内を飾らせることを好みました。

そして時は流れ………豪華なパーティーやオペラ、サロンコンサートなど、ふたたびパリに贅沢を謳歌する文化が戻ってきた第二帝政時代。ナポレオンⅢ世の皇妃ウジェニーは、厳格なフランス宮廷のしきたりに戸惑いを感じ、自らの立場を、同じく外国からお輿入れしたマリー・アントワネットに重ねるようになります。アントワネットの遺品をコレクションしたり、アントワネットが愛した装飾趣味に傾倒しました。当時時代のファッションリーダーであったウジェニー皇妃の影響で、フランス上流社会にアントワネットブームが起こります。

その華麗なる時代を象徴する、フランスはナポレオンⅢ世時代に製作されたウエッジウッド陶板付きの特別なショーケース。フランス製ショーケースには、イギリスから特注で取り寄せたジャスパーウェアの陶板が装飾されています。これまで夢織が所蔵してきた陶板付きの装飾ショーケースの中でも一際大きく、存在感のあるヴィーナスと天使によるジャスパーウエアが見るものを魅了します。

ルイ16世とアントワネットが愛した贅沢な装飾が見事に再現された、極めて王侯貴族趣味による装飾家具です。

  • 1.特注による大きなジャスパーウエア

    1.特注による大きなジャスパーウエア

    中央扉下部に装飾された、陶板。思わず目を奪われる、陶板の大きさは、幅17センチ、長さ20.5センチ。ジャスパーブルーと呼ばれる清々しい水色の素地に、天空に遊ぶ美の女神ヴィーナスとその愛児キューピッド。心地よい風に吹かれるヴィーナスの衣。伸びやかに飛翔するキューピッドの背景には、繊細に浮かぶ淡い雲が刻銘に表現されています。

  • 2.美しいオリジナルのガラス

    2.美しいオリジナルのガラス

    扉に貼られた波ガラスはオリジナルのもので、危うい曲線が、光を取り込み、中に飾られる自慢の調度品を照らすことが計算されています。ショーケース内部に貼られているのは、エルミタージュ美術館にも使用されている上質な生地です。バラの地模様が、光沢のある濃く赤いバーガンディのシルク地に映え、ショーケースを一層豪奢に仕立てています。

  • 3.高級木材ローズウッド

    3.高級木材ローズウッド

    溜息が出るほど美しいローズウッドの木目が、ショーケース全体を覆っています。はちみつ色と、明るい褐色と、小麦色の木肌が、放射線状に層をなして輝いています。削るとバラの香りがするため、ローズウッドと呼ばれるこの時代の木材を入手するのは困難であり、貴重です。極めて木肌が美しいローズウッドを全面に化粧張りする贅沢は、まだ木材物資が豊かであった19世紀のヨーロッパである故に可能でした。

  • 4.月桂樹「ダフネ」のブロンズ装飾

    4.月桂樹「ダフネ」のブロンズ装飾

    扉上部に、月桂樹の冠を頂いたブロンズの女神が装飾されています。その繊細で美しい貌は気品を湛え、ギリシャ語で「月桂樹」を表すダフネであることを暗示しています。アポロンの恋を拒んで月桂樹に変身した美しいダフネが、4面全てに装飾されています。華麗な意匠を演出し、神聖な家具であることを示しています。

  • 5.優美なカブリオールレッグ

    5.優美なカブリオールレッグ

    美し伸びる4本のカブリオールレッグ(獣脚)には、足先まで優雅な花と植物のブロンズ細工が施され、華麗な宮廷趣味を演出しています。当時の上質な家具は細部までこだわり抜き製作されています。本品のような装飾芸術と呼ぶに相応しいショーケースにとって足先は、意匠の決め手になります。

  • 6.豪華さを演出する大理石

    6.豪華さを演出する大理石

    天板に貼られた美しい大理石。かつてそこには甘くみずみずしく香る花々が活けられた花瓶が飾られ、パーティーの招待客たちの眼を大いに楽しませたことでしょう。城や貴族の館に飾られている装飾性豊かなショーケースには、本品のように上質な大理石が配置されていることがよく見受けられます。

  • 7.ジョサイヤ・ウエッジウッド

    7.ジョサイヤ・ウエッジウッド

    古代ローマの遺跡から発掘されたカメオガラスの壺「ポートランドの壺」に魅せられたウエッジウッド(1730-1795)は、4年の歳月をかけて陶器で再現することに成功します。 ウエッジウッドは、着色した素焼状の素地に、白く彫像を浮かび上がらせるこの特殊な炻器を作るのに、3000種類以上の色を試し、窯内部での温度計測を徹底管理した実験を根気よく重ねました。陶工とは、科学者であり、芸術家であり、錬金術師であったといえましょう。本品に見られるジャスパーウエアは、彼が情熱を注いで為し遂げた火と土の化学反応により、卓越した作品に仕上げています。

  • 8.「アポロンとダフネ」

    8.「アポロンとダフネ」

    本品のブロンズ装飾の題材であるダフネとアポロンの物語から取られているポライウォーロ作の名画。(1480年頃ロンドンナショナルギャラリー所蔵) ダフネを月桂樹に変身させてしまったのは、太陽神アポロンが戯れにキューピッドをからかうことに対する怒りが巻き起こした結末でした。アポロンを拒絶し、月桂冠をいただき静かにたたずむダフネ。そのダフネと美しい母ヴィーナス、無邪気に遊ぶキューピッドが描かれた本品。美と運命の連鎖がこの美しいショーケースを神話化しています。

  • 9.煌びやかな時代を象徴する逸品

    9.煌びやかな時代を象徴する逸品

    本品が製作された、神話化されてしまった19世紀のパリ・・・神話の主人公のようなパーティーの参加者達とシャンデリアが映り込むミラー、デコルテを宝石で飾りたて扇で顔を隠しながら物憂げな視線を投げる貴婦人、久しぶりに再会した友人とバルコニーに出て、広大な庭を眺めながら、学生時代の思い出を語る青年将校………シャンパンの美しい泡のように消えてしまったあの輝かしい日々を、いまふたたびこのショーケースが、鮮烈に蘇えらせてくれます。