イギリス家具の歴史において最も著名であり、現代に至るまで200年以上、英国中、ひいては世界中で愛され続けている家具を生みだした稀代のデザイナー、トーマス・チッペンデール。彼の独創的なデザインはその名をとってチッペンデール様式と呼ばれ、英国独自の家具デザインの源流として、後世に大きな影響を与えました。
特にロココ様式をベースとして、当時の上流階級の間で流行していたシノワズリの要素を取り入れたチッペンデール様式は、ヨーロッパそして世界を席巻します。
そんなチッペンデールのデザインを受け継ぎ、英国における装飾家具の最盛期であるヴィクトリア朝期に特注で制作されたダイニングテーブル椅子6脚セット。最高品質のマホガニー材による3枚のオリジナルのエクステンションが付いた、最大3m以上まで拡張できる比類なきダイニングテーブル。そして、ゆったりとした座り心地の良い椅子は、チッペンデール様式の中でも珍しい、美しいリボンバックによるもので、稀少な6脚セットです。
英国史上において、燦然と輝くヴィクトリア朝の時代・・・栄華と繁栄を謳歌していた御邸のダイニングルームに荘厳な本品は設えられ、幾度となく豪華な晩餐会やパーティーが繰り広げられていたのでしょう。当時の華麗なる社交の世界が想起されます。
<テーブルサイズ>
幅167cm×奥行138cm×高さ72cm
幅(延長板1枚)212cm
幅(延長板2枚)256cm
幅(延長板3枚)302cm
先ず、目を見張るのは、テーブルの天板に使用されているマホガニーの無垢材です。宝石のような艶やかな美しい木目は最高級のチッペンデール様式の家具には欠かすことができない要素です。幕板には木目を統一するためにマホカニー材の化粧張りがなされています。元々状態の良い天板に、時間を掛けてフレンチポリッシュを施し、天板が輝いています。
このダイニングテーブルが制作された当時のエクステンション(延長板)が3枚付いています。城や貴族の館で見られるダイニングテーブルの延長板は、上に置くだけの簡易的なものを使うことが多く、延長板を置いている部分をテーブルクロスにより覆い隠します。本品は、延長板3枚全てのサイドまで彫刻で装飾されている貴重なオリジナルのものであり、木目の良さが存分に感じられます。
本品のワインド・アウト式の拡張装置はヴィクトリア朝期における画期的な発明です。縮小した状態ではほぼ円に近い楕円ですが、ハンドルを差し入れて回すと、螺旋状のバーが延びて天板が開いていきます。延長板1枚で212cm、2枚で256cm、3枚を入れると最大302cm。本品がこれほどの大幅な拡張を現代でも可能にしているのは、螺旋状のバーが2段階の構造で、腕利きの職人により緻密に製作されているからです。
飾るだけで存在感のある椅子。ダイニングテーブルに椅子6脚をセットすると、英国貴族の晩餐会が彷彿される、格式高い佇まいです。通常のダイニングチェアよりも、非常にゆったりとした作りの椅子に腰を据えると、ハイバックの背面が心地よく、長い時間座っていても疲れません。椅子の張地は、王室御用達の上質生地で張替え、さらに格調高く仕上がりました。
リボンバックチェアのリボンの部分は、ケルト文様のインレースのように、切れ目なくつながっています。この終わりのない連続文様は、ケルト民族においては無限や永遠、あるいは輪廻転生を意味するとされています。トップは、チッペンデールのデザインに柔らかな曲線を加えた、ヴィクトリアンならではの優美なデザインです。
優美な曲線を描くカブリオレ・レッグからクロウ&ボールへの組み合わせはチッペンデール様式を体現したものです。特に本品が素晴らしいのは、補助なしで非常に大きな天板を支える為に大変太いマホガニー材を使い、丹念に施されたアカンサスの彫刻やクロウ&ボールは非常に深く掘りこまれ、当時の職人の技量の高さに感動するほどの手間を掛けているところです。
初期においては家具の脚は非常に簡素なものでしたが、様式の変化とともに発展していきます。18世紀初頭クイーン・アン様式の頃にはパッド・フッドやダッチ・フッドと呼ばれるデザインが登場し、チッペンデール様式では中国風の竜の足と宝玉を象ったクロウ&ボールが好まれ、最高級の家具には欠かせないものとなります。格調高く彫刻されたクロウ&ボールは本品の象徴です。
英国史に残る稀代の家具作家。家具職人の家系に生まれたチッペンデールは、自身のデザインを確立し、イギリス史において初めて家具のカタログを出版します。その斬新であり装飾性豊かなデザインが「チッペンデールスタイル」と世界を席巻します。英国を代表するマナーハウスの一つ、ハーウッドハウスでは、ネオクラシカル様式家具の礎を築きます。
チッペンデールという言葉は文学作品の中でも高級家具の代名詞のように登場します。映画の原作ともなった『チョコレート工場の秘密』でおなじみの作家ロアルド・ダール(1916-1990)が1960年に発表した短編集『キス・キス』の一篇「牧師のたのしみ」では、チッペンデールのチェストをめぐっての騒動がブラックユーモアによって描かれています。
18世紀初頭、イギリスはロココ美術の影響が少なく、装飾芸術の分野においても、王侯貴族の城などのとりわけハイクオリティーな室内装飾の中だけで見られるのみでした。このような状況下で、チッペンデールは自身のデザイン集で、ロココ様式で用いられるリボンやスクロール、カブリオレ・レッグなどのデザインを用いた家具を発表し、ブリティッシュロココを提唱します。
中世以来19世紀に至るまで、イギリスの貴族は市街地にはタウンハウス、自らの所領にはカントリーハウスという豪華な屋敷を構えて行き来し、狩猟や乗馬、ダンスやカードゲームなどに明け暮れる優雅な生活を送っていました。その中でもパーティーは重要で、タウンハウスでは公式な社交の場としてダンスパーティーを、カントリーハウスではじっくりと情報交換のためのホームパーティーを開き、人脈を広げていました。本品は、その華麗なる社交の場を豪華に演出するために制作されたダイニングテーブルです
英国における装飾家具の最盛期であるヴィクトリア朝期に特注で制作されたダイニングテーブルセット。最高品質のマホガニー材による3枚のオリジナルのエクステンションが付いた、最大3m以上まで拡張できる比類なきダイニングテーブルと美しいリボンバックによる荘厳な椅子6脚・・・19世紀の栄華と繁栄を謳歌していた御邸のダイニングルームに格調高く設えられていたのでしょう。