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エミール・ガレ作 兎象嵌テーブル<br />
1900年頃 フランス ウォルナット<br />

エミール・ガレ作 兎象嵌テーブル
1900年頃 フランス ウォルナット

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幸運と豊穣を招くうさぎが、楽しげに飛び跳ねながら、新しい年を連れて来ました。ま新しい真っ白な大地を、福の神の使いたちが、奔放に跳び回ります。
そのうさぎがテーマの、アール・ヌーヴォーが生んだ天才芸術家エミール・ガレの兎象嵌テーブルです。

1846年5月4日、エミール・ガレは、ロレーヌ地方ナンシーで高級陶器・ガラス製品を取り扱う皇室御用達の商家に生まれました。ガラス職人でありながら、ナポレオン3世のいくつもの宮殿や館にクリスタルや陶器を納める成功した商人であった父は、大切な跡取り息子エミールの教育に熱心でした。幼い頃から文学と音楽に親しみ、植物学に熱中したエミールの資質は、やがて色濃い文学性と芸術性に優れた作品を産み出していきます。

ガレが家具の製作に携わったのは、1885年から夭折する1904年までのわずか19年間です。この作品は、1900年頃の製作。元来ガラス・陶芸作家であったガレが、まったく未知の家具創りの世界に進出し、試行錯誤を繰り返して、独創性に優れた作品を創り出すようになった円熟期に産み出されたものです。この時期に製作された家具が、最も芸術性に優れると評価されています。

心なごむ幸福な風景が、3枚の天板に象嵌細工で表現されています。ガレが愛したナンシーの光り輝く草原と、彼方に広がる深い森。4羽のうさぎが、楽しげにたたずんでいます。

うさぎ達は、どこかユーモラスに描かれています。ぴょん、と飛び出したいのか、後ろ足でしっかり立ち上がっていたり、少し腰を屈めてみたり。おなかいっぱい草を齧ったのか、のんびりと座りこんでいる黒うさぎは、動こうともしません。平和な、平和なナンシーの森のある一日のお話しです。

うさぎ達が見守るやさしく美しい風景が、計算された色遣いと構図で華やかに表現されています。ガレは家具作りにおいて、偶然が産んだ「木目」という素材で図案を表現する象嵌のテクニックに最も共鳴し、重視しました。

両脇の貫部分は、デザイン性に富んでいます。中間部の天板と最上部の天板を繋ぐ東洋的で洗練された曲線。蛙股の欄間を連想してしまいます。貫に加えられた、装飾性に富んだ小さな球。きゅん、と外向きに反り返る華奢な脚。表現に満ちた細部が、エキゾチックでモダンなデザインを見事に演出しています。少し離れて眺めるとまるで、天使が奏でるハープのようなフォルム。どこからか風が吹いて、気まぐれに弦を弾き、音楽が流れるような姿…。

研ぎ澄まされた感受性を持つ孤高の美の探求者ガレが、生きものと自然に対する溢れんばかりの愛情を注ぎ込んだ、珠玉の作品です。

  • ロベール・ド・モンテスキュー伯爵(1855-1921):植物学協会会員だった祖父の影響で、ガレは生涯を通じて植物を愛したことは良く知られていますが、彼はまた動物好きでもありました。特に猫好きで、作品の図案にも見られます。当時のパリ社交界の中心人物・稀代の洒落者ロベール・ド・モンテスキュー伯爵は、ガレ作品の賞賛者でした。

  • 伯爵はガレに3匹の猫をプレゼントします。3匹目の猫は、ビロードのマスクをつけて、アザラシ・ウサギ・テンジクネズミの毛皮であつらえた色鮮やかな道化師の衣装を身に纏い、ガレ邸へ届けられました。ダム・プリュッシュ(ビロードのご婦人)と名付けられたこの猫は、生涯ガレと一緒にアトリエに毎日通う事が日課でした。

  • 横から見たテーブルです。ガレの作品に多く見られるジャポニズムのニュアンスが、ここでも色濃く現れています。華奢で繊細なデザインは、家具に可憐で精緻な印象を加えます。見る角度によって全く新しい表情を見せる造詣。芸術性が高い作品です。

  • 最上段の天板にガレのサインがあります。サインはガレが直接記したものではなく、マーケトリー細工で描かれています。ガレは、家具をデザインして、熟練した職人に製作させ、出来上がりに満足したら、作品にサインを加えさせました。

  • うさぎは、古くから日本人にとって、幸運を運ぶ神の使いとされてきました。飛び跳ねるさまは飛躍を、子供を多産することは豊穣を、長い耳は良く聞き福を集めるという連想から出世・財運をもたらすとされています。ヨーロッパでは、うさぎの足が災難よけのお守りとされます。

  • ガレは、初めて材木商の元を訪れた際、木目の持つ美しさに激しく感動しました。自社工房には、なんと600種類もの世界各国から取り寄せた材木を、源産地・色・木目ごとに番号を付けて保存していたといいます。

  • ガレの家具作品では、主にトンボ、蝶、蛙が好まれる図案で、うさぎは極めて稀少です。この作品のうさぎは特に擬人化されていて、微笑む表情が描かれています。ユーモラスな表現に、当時ヨーロッパで大流行していた浮世絵の、北斎漫画や広重の描く動物たちの生き生きとした表現の影響が見られます。(歌川広重「月夜と木賊(とくさ)に兎」の一部より

  • 文豪マルセル・プルーストもまた、ガレの作品に惜しみない賛辞を贈りました。20世紀を代表する文学作品と評価される「失われた時を求めて」の第3篇「ゲルマントの方」の中に、このような一節があります。「間もなく冬が来る。窓の片隅にはガレの作るガラスのように、ひと筋の雪が氷りつくだろう。」ガレの作品を使って、見事に雪の美しさを象徴的に表現しています。