フランス史におけるルイ・フィリップの治世は、
そのルイ・フィリップ王の時代に制作された、ルイ16世様式陶板
この家具の象徴として嵌め込まれた3つのセーブル様式の陶板。「
そこに存在するだけで、空間を変えてしまう美の力。
楽園を連想させる鮮やかな色彩で描かれた鳥たちの風景による美しい陶板画。「鳥を愛でる」というのは、極めて貴族的な趣味と言える。フランス王だけのために作られたセーブル窯では、王にふさわしい完璧な作品を目指したため、絵付けには画家が雇われていた。名だたる画家たちのなかで、1750~60年代に脚光を浴びたエティエンヌ・エヴァンは、華麗な色遣いで知られ、特に「異国の鳥図」で人気を博した。陶板に描かれた6羽の鳥たちは、それぞれ異なる色彩豊かな羽を広げている。描かれる構図や色遣いに、エヴァンの強い影響が見て取れる。特に、画面の両脇に灌木を描いて枠の代用にするのは、エヴァンが好んだデザイン。エヴァンの美意識が、忠実に守られている。
鳥たちを囲む黄金のオルモル細工。中央扉のオーバル型の陶板を装飾するオルモル細工は、中心にヴィーナスの象徴シェルが頂かれ、同じくヴィーナスの花である大輪の薔薇や、キリスト教で生命力の象徴とされる葡萄、朝露を帯びてたわわな豊穣の象徴イチジク、丸く柔らかく実る梨。左右の扉の陶板には上下にシェル、花綱、アカンサス、そしてフランス王家を象徴するフルール・ド・リス。高貴さ、豪華さ、豊かさ全てを表現するオルモル細工。 暗褐色の極上のマホガニーは、陶板やオルモル細工を浮かび上がらせる格好の背景である。最高級の木材に背景の役割を与えるのは、フランスならではの贅沢さと言える。
中央扉の左右には溝象嵌が施され、薔薇・ユリのつぼみのオルモル細工が装飾されている。四隅を装飾するロゼット紋は、太陽の光を表現したロマネスクの伝統が香る意匠。扉左右の棚には、スタイリッシュな菱形の象嵌がなされ、棚の曲線と呼応して端正な印象を与える。左右の丸い引手を引くと、手紙を走り書きできるスペースが生まれる。マホガニーの美しい木目が艶やかに輝き、この家具の保存状態の素晴らしさを物語る。左右の扉付き棚と、中央の鍵が掛かる引出しは、古典的なデスクのデザイン。 直線的に伸びる脚は、ルイ16世様式の特徴で、グラマラスな家具のデザインに直線の要素を加えることで、華奢で豪華な印象を演出する。溝象嵌にはめ込まれたオルモル細工の優雅なユリのつぼみ、駒を意味する、足先の繊細な飾り「トゥピ・サボ」toupiesabots。フランス宮廷趣味が脚のデザインにも集約されている。
トゥピ・サボとはフランス語で独楽と名付けられた足先の装飾。ルイ16世様式の高級家具に見られるデザインで、重厚な家具に可憐で軽快な印象を与える。画像右は十代のアントワネット。本品に施されたトゥピ・サボはエレガントな佇まいを演出。
フランス王家の象徴であるフルール・ド・リス(アヤメの花によるデザイン)。本品のオルモル(ブロンズ)細工にも優美に施されています。ルイ14世のガウンに見える黄金のフルール・ド・リス。
ルイ・フィリップ王(1773-1850)。シャトー・ドゥのためにセーブルに注文したティーセットは時代を代表する工芸品と讃えられた。ルイフィリップ王の命によりフォンテーヌブロー城とプティトリアノンのためにつくられたセーブル窯プレート(夢織所蔵品)も存在する。本品はルイフィリップ王時代に制作されている。
ヘラルド・ファン・スペンドンク(1746-1822)による静物画。王のための完璧な作品を追求するセーブル窯では、花を描くにも花の構造から理解して作画することを求められ、王室付の細密画家であったスペンドンクが画家の指導に当たるといった徹底ぶりだった。ジョゼフィーヌ皇后付きの薔薇の画家ピエール・ジョゼフ・ルドゥーテも彼の弟子のひとり。
アレクサンドル・カバネル作「ヴィーナスの誕生」(1863年)。ボッティチェッリから約400年後に描かれた「ヴィーナスの誕生」。海水の泡から生まれたばかりの美と愛の女神ヴィーナスは描いた作品はナポレオンⅢ世が購入。本品(ボヌールドゥジュール)はヴィーナスの象徴であるシェルとヴィーナスの花である大輪の薔薇が描かれている。
ヴィーナスの象徴シェル、同じくヴィーナスの花である大輪の薔薇、キリスト教で生命力の象徴とされる葡萄、朝露を帯びてたわわな豊穣の象徴イチジク、そしてフランス王家を象徴するフルール・ド・リス。高貴さ、豪華さ、豊かさ全てを表現する装飾が施された、神聖なる装飾家具。”美”への飽くなき追求の結晶とも言える逸品。