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夢織のおすすめ

ナポレオン3世ルイ16世様式<br />
金箔 ミラーバックショーケース<br />
1870年頃 フランス

ナポレオン3世ルイ16世様式
金箔 ミラーバックショーケース
1870年頃 フランス

ヨーロッパ絶対王政の時代、金蒔絵を施した日本製の漆器は各国王族の垂涎の的でした。とりわけオーストリアに君臨した女帝マリア・テレジアは、その価値をダイヤモンドの比ではないと絶賛し、富と権力にまかせて膨大なコレクションを蒐集しました。1780年マリア・テレジアが崩御した後、50点に上る漆器の小箱が娘のフランス王妃マリー・アントワネットに譲られます。アントワネットはすぐさま母親の思い出が籠った品を飾る為のショーケースを、お気に入りの王室お抱え家具作家ジャン=アンリ・リーズナーに作らせました。

今月の夢織のおすすめは、1870年頃製作されたフランス製ナポレオン3世ルイ16世様式 金箔 ミラーバックショーケースです。蒔絵を愛し、ゴールドという色を愛し、ヴェルサイユに自らの内殿として「黄金の間」を設けたアントワネット。この作品は、まさに「アントワネット好み」の、夢のように美しいお品です。眺めているだけで陶然と幸福に浸れます。
それでは細部を見ていきましょう。

  • 目に飛び込んでくるのは、心を満たすゴールドの贅沢さ。光り輝く精緻な直線のフォルムは、古代ギリシャローマからルネサンスに受け継がれた古典的なデザインスタイル。古典的でありながらも、洗練された印象を与えるルイ16世スタイルは、フランス装飾芸術の至高ロココの影響を受けた賜物と言えるでしょう。ルイ16世自身は、装飾の趣味において妻のアントワネットに強く感化され、可憐で品格のある調度品を好みました。

  • 全ての彫刻は、ゴールドの地に戯れる光の反射を計算して施されています。中央扉、上部の左右に淑女のブローチを彷彿とさせるバラ文様。光を帯びたバラに威厳さえ感じられます。

  • すっきりと伸びる格子型の柵には細かい彫刻が加えられ、面取りガラスと呼応して美しい景色をつくり上げます。

  • ガラスの透明で硬質な光が、ゴールドの色彩を照らして、家具に華やかな表情を加えています。

  • 波型にうねり連鎖する曲線と球の文様。ヴェルサイユ宮殿のアントワネットの「黄金の間」の壁に描かれた球紋様を想起させます。

  • ショーケースに差し込む光。分厚い面取りガラスは、北方の湖の透明さ。わずかに青みがかった光をまとうガラス越しに見える自慢の調度品………。アントワネットであったなら、迷わず蒔絵の小箱や、手のひらに乗る硯箱を並べ愛でたことでしょう。

  • 目を惹くのは、扉下部の見事な浮彫。中央は、タンバリンやカスタネット、クラリネットがリボンで結ばれ、草花をまとって優雅に飾られています。モーツァルトのクラリネット協奏曲が、開け放たれた遠い窓から聞こえてくるようです。両脇の花の装飾。柔らかなつぼみからしなやかに伸びた茎が、交差しながら一つの円を描きます。たおやかな草花の風情が、ロマンティックなフォルムを醸し出します。そして側面のバラ文様。花びらの反りまで力強く表現され、太陽が誇り高く輝いているような姿。そしてこの家具をさらに魅力的にしているのは、S字型にくねるカブリオールレッグです。古典的なモチーフであるアカンサスの葉が添えられ、直線的なデザインにあって、柔らかいニュアンスを加えています。ほんのりと、ロココの美意識が香ります。

  • 最後に、この家具が海を渡り夢織にやって来た時のお話をいたしましょう。荷を解き、華奢な鍵を廻して扉を開けた瞬間………。きらきらとひかる金箔のかけらが、無数に舞い降り、あたりに降り注ぎました。それは、胸が苦しくなるほどの感動をおぼえた瞬間でした。見ると、ガラスと桟の間に挟まっていた金箔が、天使のいたずらのように舞い降りてきたことが判りました。元の所有者から、あるいは天使から祝福されたような瞬間でした。 数々のアンティークとの出会い――それは、さまざまな物語との出会いでもあるのです。