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ルイ16世スタイル装飾キャビネット<br />
フランス 1850年頃 オーク

ルイ16世スタイル装飾キャビネット
フランス 1850年頃 オーク

一年を締めくくる神聖な思いと、来る新しい年を、健やかに安寧に過ごせるようにと祈る願いが交差する12月…。イエス・キリストの生誕を祝して、ヨーロッパの家々では、いそいそとクリスマスの準備が始まっています。ケーキにブランデーを垂らし、皆でツリーを飾り付け…クリスマスの風景は、家族の歴史そのものです。この家具は、どんなクリスマスの風景を見ていたのでしょうか…。

今年最後にご紹介するのは、1850年代に北フランスで製作されたルイ16世スタイルのキャビネットです。

このキャビネットとの偶然の出会いは、ベルギーでした。かの地の名家が所蔵していたもので、当店のオーナーが、その見事な完成度に一目で魅了されてしまった「逸品」です。フランスの家具作りはその高度な技術に加え、デザインの素晴らしさで世界中の称賛を浴びており、当時の世界の富裕層の「富の象徴」でありました。

見上げる高さ254センチ、幅177センチ。空間を圧倒する存在感です。

眼前に広がる光景は優美で品格が高く、見る者に美術館で名画に巡り遭った瞬間と同質の、陶然とした幸福感を与えてくれます。

ルイ16世スタイルの家具装飾の特徴として上げられる代表的デザインは、草花のリース・リボン・花籠・月桂樹・羊飼いの帽子や杖・農耕具で、キャビネットの至る部分に配されています。ロココの華燭な美意識を通過したルイ16世の時代、原点に立ち戻り自然の美しさを求めることで、生命の謳歌と祝福を表現しました。

彫刻をふんだんに取り入れたこの家具に、バランスのとれた美しさを加えているのは、中央の飾り棚の存在でしょう。美に「均整」を求めたルイ16世様式が、この部分に特徴的に表れています。自然を象徴する素朴な意匠が、洗練の域に昇華された瞬間です。

キャビネットの3つの扉の間には、ギリシャ・ローマ様式の花瓶が2つ彫刻されています。左側の花瓶の上部に、注文主の要望か、製作者の気遣いか、セルティック・ノッツ(ケルト民族の代表的な意匠)が彫られています。

こうしてこの家具の細部を見ていく毎に、その細部の完成度の高さと確立された均整美に、言葉を失うばかりです。

19世紀末、長いオランダからの弾圧から解き放たれ、独立を果たしたベルギーは、歴史上最も豊かで華やかな時代にありました。アントワープのダイヤモンド産業が命を吹き返し、首都ブリュッセルはヨーロッパ有数の金融の都となり、活発化した経済は、人々に繁栄をもたらします。

国王レオポルド1世、その子息である2世は、豪華な建造物建設に食指を動かします。富裕層にとっても、邸の建築は富の象徴であり、イギリス風庭園や、フレスコ画が配されたフランス風新古典主義スタイルの邸宅が、贅を尽くして建てられた時期でありました。

…永遠にも思えた華美な夢に、人々が酔いしれていた時代…このキャビネットは、そんな幸福な時代に製作されました。そして、悲劇は、ドアのすぐ向こう側に来ていたのです。

  • キャビネットの上部に、ふんだんに初夏の花々が盛られた花籠の彫刻があります。一輪一輪写実的に彫刻された花々が香しく咲き誇り、籠にどっしりとした重みを掛けているように見えます。網目から見える茎や葉には、今手折ったばかりのみずみずしささえ感じられます。

  • キャビネット上部は華やかなオペラ座の観客席を彷彿とさせます。

  • 左右対称にしつらえられた、鍵がかかるガラス張りの飾り棚。扉最上部を花束の彫刻が彩り、ガラス窓の下には左に農夫の帽子・麦の穂・鎌、右には当時の楽器が彫刻されています。鍵穴はギリシャ神話に語られる、「ステュムパリデスの怪鳥」(※)のような、厳めしい鳥の金具に守られています。
    ※ペロポネーソス半島のステュムパーロス湖畔の森に棲んでいたとされる。軍神アレースのペット。 青銅の爪と嘴を持っており、「ヘラクレスの12の難行」に登場する怪鳥。

  • 中央部の飾り棚を見てみましょう。4階建の劇場桟敷のように仕切られた上下の棚板を、古代神殿の柱のような貫が支えています。そして左右対称に、ルイ16世が使ったベルサイユ宮殿の室内に特徴的に見られたpilastre(壁から浮き出した彫刻柱)が、直線的な要素を加えています。

  • この飾り棚にはそのお屋敷が誇る豪華なプレートセットが飾られていたことでしょう。

  • リボンが彫刻された3つの引出は、すべて手彫りで組継ぎされています。贅沢にも底板に上質のオーク材を使い、中央と右の引き出しには天板がついていて、引き出すと物を置けるように設計されています。

  • それぞれ鍵がかかる3枚の扉が、このキャビネットにさらなる風格を与えています。中央の扉に彫刻された、勝利と栄光を象徴する月桂樹のリースに祝福された「3つ星と横帯」の家紋は、かつての所有者の位の高さを物語っています。

  • ケルト人から派生したベルガエ(ケルト語で「戦士」)という部族がベルギーの基礎を築いたと言われていて、この部分にもデザインの緻密さと、表現の素晴らしさを見ることができます。