1840年代に北フランスで製作された、圧倒的な存在感を放つキャビネット。
ベルギーのかの地の名家が所蔵していたもので、弊社代表がその見事な完成度に一目で魅了されてしまった「逸品」です。フランスの家具作りはその高度な技術に加え、デザインの素晴らしさで世界中の称賛を浴びており、当時の世界の富裕層の「富の象徴」でありました。
見上げる高さ254センチ、幅177センチ。空間を圧倒する存在感です。
眼前に広がる光景は優美で品格が高く、見る者に美術館で名画に巡り遭った瞬間と同質の、陶然とした幸福感を与えてくれます。
ルイ16世の家具装飾の特徴として上げられる代表的デザインは、草花のリース・リボン・花籠・月桂樹・羊飼いの帽子や杖・農耕具で、キャビネットの至る部分に配されています。ロココの華燭な美意識を通過したルイ16世の時代、原点に立ち戻り自然の美しさを求めることで、生命の謳歌と祝福を表現しました。
彫刻をふんだんに取り入れたこの家具に、バランスのとれた美しさを加えているのは、中央の飾り棚の存在でしょう。美に「均整」を求めたルイ16世様式が、この部分に特徴的に表れています。自然を象徴する素朴な意匠が、洗練の域に昇華された瞬間です。
キャビネットの3つの扉の間には、ギリシャ・ローマ様式の花瓶が2つ彫刻されています。左側の花瓶の上部に、注文主の要望か、セルティック・ノッツ(ケルト民族の代表的な意匠)が彫られています。
こうしてこの家具の細部を見ていく毎に、その細部の完成度の高さと確立された均整美に、言葉を失うばかりです。
19世紀末、長いオランダからの弾圧から解き放たれ、独立を果たしたベルギーは、歴史上最も豊かで華やかな時代にありました。アントワープのダイヤモンド産業が命を吹き返し、首都ブリュッセルはヨーロッパ有数の金融の都となり、活発化した経済は、人々に繁栄をもたらします。
国王レオポルド1世、その子息である2世は、豪華な建造物建設に食指を動かします。富裕層にとっても、邸の建築は富の象徴であり、イギリス風庭園や、フレスコ画が配されたフランス風新古典主義スタイルの邸宅が、贅を尽くして建てられた時期でありました。
永遠にも思えた華美な夢に、人々が酔いしれていた時代・・・このキャビネットは、そんな幸福な時代に製作されました。まるでオペラ座の観客席のようなキャビネット上部は、この家具の所有者を舞台の主役とし、このキャビネットと飾られる調度品は舞台を最高に演出する室内装飾でありオーディエンス(観客)・・・そんなストーリーがこの家具から聞こえてくるようです。思い出と共に代々大切に受け継がれる、家宝と呼ぶに相応しい逸品です。