19世紀末、フランス。フォーブル・サン=ジェルマン界隈の貴族のサロンでは、ジャポニザン(日本芸術愛好家)であることが、流行の最先端でした。浮世絵、掛け軸、漆器、根付、果てには日本庭園や茶室まで、日本の芸術を生活に取り入れることは、当時のヨーロッパ上流社会の、知性と教養を裏付けるステイタスでした。日本の美術品は、高騰を続ける一方で、しびれを切らした一部の富豪達は、連れだって日本へ赴き、横浜や京都や尾張で七宝や陶芸、布目象嵌を買い求めるほどでした。
日本芸術を敬い、日本芸術の特徴をフランス人の感性で取り入れたガレによるベッド。ガレの出身地であるナンシーの、ある邸宅から、ナイトテーブルとセットで出会えたものです。デザインが、日本趣味に特化していることから、依頼主はジャポニザン(日本美術愛好家)で、日本の芸術品や工芸品を愛した人物であることが推測されます。また、ガレのベッドは製作数が少なく、このように色濃く日本趣味を表現したものは、文献に発見できず、アート作品としての価値も高いものであると評価できるでしょう。