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夢織のおすすめ

リエージュ ナポレオン3世 サロンスゥイート<br />
1870年頃 ベルギー

リエージュ ナポレオン3世 サロンスゥイート
1870年頃 ベルギー

サロン……ヨーロッパの上流社会で繰り広げられた夢の世界。教養ある館の貴婦人が、社交界から選び抜いた参加者を招いた集い。自らがパトロンとなり支援する音楽家に新曲を演奏させたり、高名な作家を招いて文学について語り合ったり、所有するシャトーの自慢のワインを披露する空間。美意識と教養を触発し合う、極めて貴族的な習慣と言えるでしょう。

今月の夢織のおすすめは、1870年代ベルギー製、リエージュナポレオン3世サロンスゥイート。制作されたのは、装飾芸術が全盛を誇ったナポレオン3世の時代です。「端正」という言葉が、これほど当てはまる家具は無いように思えます。かつての所有者は、この家具とどんな心豊かな時間を過ごしていたのでしょうか。

  • リエージュ
    10世紀から18世紀の長きにわたって、司教が君主であったリエージュは、進歩的な国際都市でした。リエージュの職人は、他国のギルドの戒律と比べはるかに自由で、外国あるいは外国人のマイスターの元で修業を積むことが出来ました。最先端の技術を誇る技術者や職人達が、数々の教会を建造しました。教会内を装飾する木彫技術が、ベルギーレースの繊細さを彷彿とさせる、リエージュ家具に発展しました。

  • サロン
    宮廷や貴族の館を舞台に、音楽、文学、哲学、あるいは政治の啓蒙をテーマに繰り広げられた社交の場、サロン。フランスでは、17世紀中半からランブイエ公爵夫人の「青い部屋」がブームのきっかけとなり、貴婦人たちが争ってサロンを開きました。貴族社会は、サロンを通じて芸術や学問のパトロンであり続けたのです。

  • ベルベット
    古代エジプトで、麻で作られていたベルベットは、古代中国伝搬し、絹を使って作られるようになりました。その後中東からイタリアへその技術は渡り、ルネサンス期のイタリアで品質がさらに高められました。染織職人、金糸銀糸の製造職人、そして織物職人による染色方法や製造法は、法律によって厳格に保護されました。特に染織職人は、時間を経ても、陽の光によっても損なわれない色彩を求め、植物、鉱物、昆虫などを使って研究を重ね、技術を向上させました。

  • フォルムの背もたれが印象的なアームチェア。
    この背もたれは、よく見るとロココの象徴、ロカイユの形をしています。暗褐色の最高級木材ウォルナットの木枠には、リエージュ家具の特徴である、高度で繊細な彫刻が施されています。ロカイユ型の背もたれを囲む、巌模様。浅く優しく彫り込まれ、木材の持つ艶やかな陰影が謎めいて現れています。うっすらと浮かび上がる、永遠を象徴するアカンサスの葉。葉の細かいくねりさえ優雅に表現されています。そして、白眉なのは格子型の象嵌部分。150年近くの月日を経ても、損傷がみられません。これは木材が収縮していない証拠です。木の歪み、狂いを計算し尽くした設計であることを、年月が証明してくれました。まさに、制作者の匠の技です。

  • すっきりとしたデザインの、可憐なチェア。
    S字型の華奢な脚が、優美なイメージを加えています。脚の付け根の部分のお花の彫刻や、座の下のエプロンに加えられた、ロカイユと、可憐な小花。細部に渡って、丁寧で上品なデザインが施されています。かつて、腰かけた貴婦人は、ふんわりとドレスの裾を広げ、流行の象牙の扇を蝶の羽のようにはばたかせながら、とりとめもなく楽しい会話に花を咲かせたのでしょう。

  • 背もたれのロカイユが、3つ重なったセティ。
    寄り添う3人の女神を彷彿とさせる、大変めずらしいデザインです。登頂部分に、バラに囲まれたロカイユが、この家具のシンボルのように彫刻されています。一連の登頂部分の装飾は、細かいパーツを組み合わせたものでなく、贅沢にも分厚い1本のウォルナットの角材を削り出し、細かな彫刻を連ならせています。そして、この家具に端正な表情を与える、ストライプの張生地。柔らかいミルクココアブラウンのカットベルベットの上質な光沢と、可憐な花模様の細かく美しい刺繍が、心地よい音楽のように目を楽しませてくれます。

  • ベルギーの文化 タペストリー
    中世ヨーロッパでは、王宮や教会の壁面を覆うタペストリーは、湿気や寒さを和らげる、いわばエアコンのような機能を果たしたり、広大な部屋に、快適なスペースを確保する間仕切りの役割を果たす、実利的なものでした。16世紀には、フランドール地方のブリュッセルやブルージュは、世界最高級のタペストリーを産出しました。巨大な壁を覆う、製造が大変困難なタペストリーは、富の象徴でありました。王侯貴族、高位の聖職者は、狩りの風景や聖書の物語の図案を注文しました。

  • S字型に曲線を描く、細い脚がスタイリッシュなテーブル。曲線の優雅さは、見る者の心をなごませます。天板には、サーモンピンクのベルベットが張られていて、張地の形どおりにカットされたガラスの天板が置かれています。このテーブルは拡張式なので、畳まれている天板を左右に広げてみると、なんと、拡張部分の天板にも同じ色のベルベットが張られていました。

  • 華やかに着飾った6人の男女が、キューバ産の極上のシガー片手に、カードを楽しんでいたのでしょう。脚部分や幕板部分の彫刻は、息をのむ素晴らしさ。まるで生命を得ているように生き生きと浮き上がるアカンサスや、美の象徴シェルは、あまりにも見事な技巧で彫り込まれ、眺めていると時を忘れて見入ってしまいます。そしてこのテーブルは、見えない底板部分に高級木材マホガニーが使われていることから、注文主の、調度品への徹底した上質嗜好が伺えます。

  • ベルギーの文化 レース
    イタリアのベニスからヨーロッパに広まったレースは、糸の宝石と讃えられ、王侯貴族の襟や袖を豪華に飾りました。ベルギーは光沢がある美しい麻の産地であったためベルギーのレースは、16世紀から17世紀にかけて、ヨーロッパ一と評されました。その芸術的なボビンレース作りは、職人に留まらず、手先が器用な農家の主婦たちの収入源であったといいます。

  • ベルギー貴族の貴婦人たち ブリュッセルのマルニ館
    18世紀、ベルギー貴族の子女達の教育に影響を与えたのは、フランスからの亡命貴族が建てた寄宿学校でした。教師となったフランス貴族の貴婦人は、革命によって両親を断頭台に送られた過去を持っていました。貴婦人たちによる、フランス流の厳格な宮廷マナーは、奇しくも革命によってヨーロッパに広まりました。

  • ベルギー貴族の貴婦人たち 敬虔なキリスト教信者であるベルギー貴族の婦人達は、紋章付の椅子が用意された席に着き、朝の祈りを捧げました。多くの子供を産むことが、古い家系を守る婦人の義務である、出産は大切な仕事でした。出産祝いに配るのは、フラゴナールの母子像に飾られた厚紙の蓋に、子供の名を銀文字で書きいれたドラジェ(砂糖で硬くコーティングしたアーモンド菓子)の小箱でした。

  • ナポレオン3世の時代
    1852年、ナポレオン3世は、フランスの国民投票によって皇帝に即位します。人口が肥大化し混乱したパリを、大改造します。下水道が通された清潔な都市に、放射線状に広がる直線道路は広場に繋がり、夜にはガス灯が街を照らしました。1855年のパリ万博では「王者のクリスタル」バカラ、高級銀器のクリストフル、旅行鞄のルイ・ヴィトン、馬具のエルメスの展示ブースを設け、高級ブランド文化を世界に発信しました。

  • 甘美なベルベットの手触り、ゆったりとしたすわり心地。ロココの象徴、ロカイユを全面にほどこし、ロココ芸術の真髄を最大限に引き出したデザイン。極上のサロンスゥイートが作り出す、空間のあでやかさ。ヨーロッパが最も豊かだった時代、うたかたのベル・エポック………かつての邸のサロンでは、どんな物語が繰り広げられたのでしょうか。