英国の王侯貴族のマナーハウスをはじめ数々の歴史的建造物を建造した18世紀を代表する名建築家ロバート・アダム。アダムを象徴するネオ・クラシカル(新古典主義)様式の家具は、英国のみならず19世紀にヨーロッパを席巻します。アダムが研鑽したイタリアやフランスでも流行し、英国やフランス製のネオ・クラシカル様式の家具が宮殿や城、貴族の館などで設えられます。
本品は、ロバート・アダムのネオクラシカル様式を体現した優美なフランス製ペイントコモードです。19世紀の室内装飾において、重要な意味を持ったハンドペイントを施した家具・・・学問と芸術が花開いた19世紀に流行したアダムスタイルの家具は、芸術大国イタリアでも高い評価を受けます。生活に美を取り入れる素晴らしさ。蘇えった新古典主義は、人々にどんな豊かさをもたらしたのでしょうか。それでは細部を見ていきましょう。
Demi-lune Commode―半月型のコモードと名付けられた、丸く曲線を描く姿には、美しいサテンウッドの木目を計算に入れて施した象嵌、艶やかな木肌を背景に描かれる渾身のハンドペイントが、細部に渡り細かく施されています。
天板には、優美なバラ、愛らしい男女の雅宴画がエレガントに描かれています。可憐な花々全てに、命が込められているようです。
天板下、古典的な文様が精緻に描かれています。メダイヨンの知性に満ちたその容貌は、思索する哲学者を連想させます。細い筆先で細密に描かれた全ての装飾は、生命の煌めきを帯びながら、今にも飛たたんばかりに躍動的に描かれています。
そして中央の扉と、左右はめ殺しの2つの扉に描かれた。それぞれ枠組みを象嵌し、オーバル型の雅宴画と壮麗なロカイユを象った薔薇による秀逸なハンドペイントが施されます。中央の扉を開くと、オリジナルによる半円型の2段に分かれる棚が設置されています。
豪奢な貴族の館は、幾重にも淡い彩色がなされる天井と、大理石の床と柱に響き合うカーペットに支配されており、その中に置かれる家具は、古典的な世界観に美しく調和するものが選ばれました。その中でも、ハンド・ペイントを施した家具は、室内を華麗に演出する重要な要素でした。
邸の大改造を計画していた、英国貴族のスカーズデール子爵は、イタリア帰りの建築家、ロバート・アダムを邸に迎えます。アダムのデザインに魅せられた子爵は、改造のデザイン全てをアダムに一任します。完成した大邸宅はケドルストン・ホールと名付けられ、天才建築家、アダムの時代が始まりました。やがて、アダムスタイルのインテリアデザインに欠かせない装飾家具は、ヨーロッパ中の王侯貴族や上流階級に愛され、本品のような家具が創り出されました。時空を超え、眼前にたたずむコモードは、栄光のヨーロッパの歴史を今日まで受け継いでいます。


