パリ・オペラ座(通称ガルニエ宮)の落成式が、華やかに開催された1875年1月5日。14年の月日をかけて改装したオペラ座は改装されました。改装はナポレオンⅢ世のパリ改造計画の目玉プロジェクトとして実行され、新しい時代の象徴になるべく、絢爛豪華な空間がつくられました。
そのオペラ座の輝かしい落成式のあった1870年代、装飾芸術の黄金期と言われるフランスはナポレオンⅢ世時代のサロンチェア。
フランス大統領パトリス・ド・マクマオン伯爵、わずか18歳の初々しいスペイン王アルフォンソ12世、ロンドン市長夫妻、パリ伯、オルレアン家のプリンセス、前ハノーファー王など、名だたる王侯貴族や名士がオペラ座の落成式に招待され、会場は溢れんばかりの着飾った紳士淑女で埋め尽くされました。改装デザインを手がけたガルニエによる、きらびやかに「水晶の光を放つ」、7トンのブロンズとクリスタルガラスの巨大なシャンデリア、舞台のカーテンや客席は全て深みのある真紅で統一され、人々はパリにこつ然と現れた夢の殿堂の中で、幸福感に酔いしれながら幕が開く瞬間を待っていました。本品は、ヨーロッパの王侯貴族が至高の時を過ごした、装飾芸術が全盛を誇る19世紀はナポレオンⅢ世時代に製作された逸品です。芸術的な彫刻の上には豪華にも金箔が装飾されています。
椅子の張地は、Akemi Mandaプロデュースによりヨーロッパの宮殿にも使用されている上質なシルク生地を使用しています。華麗な椅子に気品高さが備わり、さらに高雅な雰囲気を演出します。ナポレオンⅢ世時代のフランスの繁栄と装飾芸術の黄金期を象徴する家具と言えるでしょう。
惹きつける魅力を放つサロンチェア。 ヨーロッパの城や貴族の館では、椅子は用途としてだけでなく、サロンルームなどのインテリアの必需品です。 彫刻作品のような彫の上には豪華にも金箔が装飾されています。 ハンドペイントによるホワイトと金箔のゴールドのコントラストは見るものを魅了します。
18世紀初頭から中期にかけ、リージェンシー(摂政政治)時代とルイ15世紀に流行した、ロココ様式を代表する装飾文様。豪華な演出として、建築物や装飾に使われます。立体的、曲線的デザインで、人工洞窟の岩と貝殻の複合体と言われています。ロカイユとは、「岩のようにでこぼこした」の意。ちなみにロココとは、フランス語のロカイユ(Rocaille)とイタリア語のバロック(barocco)からの造語です。本品にもロココ様式を継承した貝殻の意匠が装飾されています。写真はルーブル美術館のロカイユルーム。
古代ギリシャからの伝統的装飾デザインであるアカンサスは、ルネサンス期に画家ラファエロらによって手を加えられ、発展します。ヴァティカン宮殿の回廊に、アカンサスに加え花、人間、花瓶、動物なども交えて描き、グロテスク文様が生まれました。本品にもアカンサスの装飾が優美に施されています。
1852年、ナポレオンⅢ世は、フランスの国民投票によって皇帝に即位します。人口が肥大化し混乱したパリを、大改造します。下水道が通された清潔な都市に、放射線状に広がる直線道路は広場に繋がり、夜にはガス灯が街を照らしました。1855年のパリ万博では「王者のクリスタル」バカラ、高級銀器のクリストフル、旅行鞄のルイ・ヴィトン、馬具のエルメスの展示ブースを設け、高級ブランド文化を世界に発信しました。
宮廷や貴族の館を舞台に、音楽、文学、哲学、あるいは政治の啓蒙をテーマに繰り広げられた社交の場、サロン。フランスでは、17世紀中半からランブイエ公爵夫人の「青い部屋」がブームのきっかけとなり、貴婦人たちが争ってサロンを開きました。貴族社会は、サロンを通じて芸術や学問のパトロンであり続けたのです。
どんなに優雅な宴が、このサロンチェアの周りで繰り広げていたことでしょう。 ナポレオンⅢ世時代のフランスの繁栄と装飾芸術の黄金期を象徴する、歴史的遺産とも言える家具と言えるでしょう。