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1660年10月25日ヴェルサイユの「狩の館」を訪れたルイ14世は、いたく気に入り、自らの居城とすべく大規模工事に踏み切る決心をします。4年の歳月をかけて改造された城館は、当代一の庭園デザイナー、ル・ノートルが設計した庭園を設えた、政治と祝祭の舞台となる大宮殿へと生まれ変わりました。
ヴェルサイユ宮殿の誕生………それは、ヨーロッパの装飾芸術の、はじまりでした。
そのヴェルサイユ宮殿で生まれた華麗なるロココ様式を象徴する、「天使」陶板画ボヌール・ドゥ・ジュール。愛らしい天使や美しい少年のオルモル細工が施された、豪華で審美的な貴婦人のための贅沢な書き物机。神話のモチーフに彩られた、360度どの角度から眺めても美しい家具です。
陶板付きの家具は、ポンパドゥール公爵夫人の時代から、王妃マリー・アントワネットの時代にかけてフランス宮廷で流行しました。フランスのみならず、流行はヨーロッパ各国宮廷に波及し、スペイン王女やロシア皇帝も愛用しました。かつては王侯貴族にしか所有されなかった陶板付きの家具。フランス宮廷文化の夢の跡を、今日に伝えています。
それでは細部を見て行きましょう。
豊穣の象徴、ザクロ型の連続文様がお城のバルコニーのような頭頂部。左右に、ガーベラのオルモル細工が一輪ずつ添えられています。
削ると咲きたての薔薇の甘い香りがする高級木材ローズウッドが、エレガントな象嵌に使われています。
左右の扉に加えられる様々な装飾。薔薇のカルトゥーシュが取り囲む、左右の天使。セーヴルスタイルの大ぶりの陶板です。カルトゥーシュに咲き乱れる、バラやスミレ。甘い香りの花びらの重みさえ表現されています。
向かって左の天使。左手には葡萄の一房、右手にはずっしりとバスケットいっぱいに摘み取った葡萄。豊穣とワインの神バッカスに扮する悪戯な天使。
右の天使は、刈り取った麦の穂と鎌を抱えて幸福そうにたたずんでいます。足元にはバラが咲き乱れています。豊穣の女神デーメーテールに扮した天使。
取り囲む蔦細工の優雅さ。新鮮なデザインです。放射線状にリバースダイヤモンドマッチ(逆ダイヤモンド型)された象嵌細工は、天使たちが放つ神聖な光を表現しています。
左右の上方に装着された少年像。多感な瞳を見開き、こちらをまっすぐに見据えている可憐な姿。高貴な雰囲気です。少年の胸像には、フランスブルボン王朝の象徴であるフルール・ド・リスが続きます。
薄い引出しに付けられた引手は、小枝で作られた弓の様に見え、陶板に描かれた天使たちが、愛の天使クピド―であることを暗示しています。
扉や中央引出しの鍵穴を飾るのは、クピドーの母である美の女神ヴィーナスの象徴、シェル文様です。
天板下に、二つの花型の引手があります。ゆっくりと引き出してみると、書き物が出来るスペースが現れます。
S字型の曲線を描くカブリオールレッグ。上部に付けられている、美貌の人物像。花冠で髪を飾り、花々で囲まれていますが、たたずまいと表情に、女神というより少年の特徴が見えます。天使とは、そもそも性別を有さない両性具有の存在でありました。
細くしなる足先に装着された鉤爪細工も、この華奢な家具そこかしこに宝石のようにちりばめられた華麗な装飾と同様、どの角度からも見る者の瞳を満足させるような演出が施されています。
後方に周ってみましょう。家具の背面にも丁寧に化粧張りがなされています。背面に向かって、後部の脚にもオルモル細工が装着されており、この家具が、壁際に置かれていなかったことが証明できます。おそらく貴婦人のプライベートな家具として、宝石箱のように愛用されていたものでしょう。
引出しから、小さな扇形の舞踏会の手帳を取り出してみます。象牙の薄片に鉛筆で走り書きする、昨日のパーティーで踊ったパートナーたちの名前。一瞬心を、めまいのような感情がとらえます。
人生という旅に不可欠なもの…心揺さぶられる旋律、いつまでも心に残る一編の詩、そして偶然の巡り合い…ボヌール・ドゥ・ジュール「1日の楽しみ」と名付けられた家具は、かつての持ち主のどんな物語を見守っていたのでしょうか….。
ポンパドゥール公爵夫人とアントワネットは最大の漆器のコレクターで、小箱46点や水差しや壺などを所有した。日本の蒔絵は、金箔張り家具やオルモル細工などヨーロッパの室内装飾に影響を与えたと言われる。本品の豪華なオルモル細工に象徴される。
本品の象徴である美しい「天使」陶板画。可憐な天使が必死に葡萄を運んでいる様子は、豊穣とワインの神バッカスに扮する悪戯な天使を描いている。陶板画の縁に装飾された豪華なブロンズによるオルモル細工が陶板画をさらに引き立てている。
本品の象徴である美しい「天使」陶板画。、愛らしい天使が抱えるように大麦を運んでいる様子は、豊穣の女神デーメーテールに扮した天使。陶板画とオルモル細工が美しく映えるように、木材は宮殿用家具の代名詞とも言える格調高いキングウッドを使用。
ゴールドという色を好み、日本の蒔絵を愛した。25歳の時に母マリア・テレジアから遺された「伊勢物語」をテーマにした漆蒔絵の小箱他50点と自らのコレクションのために、陳列用のショーケースを作らせた。本品のような陶板画が装飾された家具を、蒔絵と同様にアントワネットがこよなく愛していたと言われる。
フランス王家の象徴フルール・ド・リス。本品のオルモル細工に見られ、気品高さを演出。左上:ルイ14世の婚礼。テーブルの布やクッションにフルール・ド・リスが見える。 右下:ルイ14世の王妃マリー・テレーズの肖像。ドレスにフルール・ド・リスが見える。
文字や紋章の縁取りに使われた、周辺に紙板の巻き返しがあるオーバル型の文様。城や貴族の館に設えられている家具の装飾モチーフに見られ、本品の陶板を縁取る豪華なオルモル細工に装飾されている。
ルネサンス期、メディチ家のフェラーラ公爵アルフォンソ・デステが、巨匠ティツィアーノに依頼した大作。恋に落ちたバッカスが躍動的に描かれている。本品の陶板に描かれている天使は、豊穣とワインの神バッカスに扮する悪戯な天使。
宮廷家具をはじめ装飾家具に描かれる女神のモチーフ。デーメーテールの娘であるペルセポネーが冥界でザクロを食したため、冬という季節が始まった。本品の陶板に描かれる天使は、豊穣の女神デーメーテールに扮した天使。
造園家ル・ノートルがヴェルサイユ宮殿で確立した「フランス式庭園」は、ヨーロッパ各国で大流行した。画家のル・ブランが宮殿内の王のアパルトマンの装飾を手掛け、各部屋にはギリシャ神話の神々の名が付けられた。ヴェルサイユ宮殿で生まれた究極の美ロココ。本品はその華麗なロココ様式による装飾家具。 左上:アンドレ・ル・ノートル(1613-1700) 中央下:ヴェルサイユ宮殿 右上:シャルル・ル・ブラン(1619-1690)