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1774年、4年の歳月を経て、ウェッジウッド創始者ジョサイア・ウェッジウッドは、念願の作品試作に成功しました。古代ローマ、ギリシャ美術に魅入られたジョサイアは、偶然目にした古代のカメオガラス「ポートランドの壺」に感銘を受け、陶器でカメオを再現しようと試みたのです。心血注いで繰り返された実験は数千回、使われた色のサンプルは3000種。陶器で再現したカメオは、釉薬を塗らず、着色した素焼状の地に、白く神々の彫像を浮かび上がらせたものでした。乾いた地肌の風合いが色彩を柔らかく引き立たるその※1炻器(せっき)は、ジャスパーウエアと名付けられます。1790年、ついにジョサイアは、ジャスパーウエアで「ポートランドの壺」を再現しました。
ジャスパーウエアは壺、プレート、カメオ、ティーセットなどに製品化され、ウエッジウッドの代名詞となりますが、特にカメオやメダリオンを用いて、多くの優れた室内装飾が生まれ、ヨーロッパの上流階級を魅了しました。
そのジャスパーウエア陶板画が装飾された、1860年代イギリス製クレデンザ。
本品の特徴としてまず上げられるのは、保存状態が極めて良いことです。水分、ホコリからもダメージを受けやすい高級素材の家具が、150年の時を経て美しい姿を今日まで留めているのは、持ち主の邸でいかに大切に手入れされていたかを物語っています。
ジャスパーウェア陶板
中心に、ジャスパーウエアのカメオが飾られています。「ウェッジウッドブルー」と称される明るいペールブルーの円形カメオに、浮かぶ花の女神フローラの姿。衣は心地良い風に舞い上がり、左手にかかげられた花綱から、みずみずしく甘い香りが立ち上って来るようです。神々の国、永遠の花園に遊ぶ豊穣の女神の姿が、神聖に表現されています。周囲を精緻な唐草模様の象嵌細工、さらに幻想的な色調の※注2バールが囲み、優美な大団円は天井画装飾の構図をなぞっておごそかな均衡美を実現しています。
新古典主義の様式美
新古典主義の様式美が、この家具の至る所に見られます。中央扉の左右対称に、コリント式の柱。細身の柱身にもバールが使われ、古典建築様式のデザインに忠実に溝が掘り込まれています。台座と柱頭には真鍮に金メッキを施した「美の象徴」アカンサスが家具に風格を加えています。また、左右の飾り棚は、損なわれず製作当時のままの波型ガラスで覆われ、棚に敷き詰められたシャンパンゴールドの厚いシルクの布が、家具に堂々たる品格を与えています。
ヴィクトリアンインレード
家具上部に中央・左右と施された象嵌細工。花・植物・天使等が連続的に描かれるローマの遺跡に発見された「グロテスク文様」の影響がみられるデザイン。丁寧な手仕事が、繊細な草花のしなやかさを表現しています。象嵌細工は、贅沢にも天板にまで施されています。ガラスの縁、カメオ細工、正面扉をトリミングするビーズを連ねた彫金細工。丹念に創り上げられた細部のデザイン全てが、上質のマホガニー材に見事な調和を保って浮かび上がります。諸部分の計算しつくされたバランスが、古代ギリシャ・ローマの美意識を至高の洗練に昇華させます。
大英帝国…伝統と繁栄が創り出した様々な遺産…誇り高い気質は失われることなく、その歴史が生み出してきた美の産物それぞれに、今も息づいています。