1880年代
英国
マホガニー
W137cm D46cm H215cm全面に、つややかな木肌が美しいマホガニーが化粧張りされた、ディスプレーキャビネット。イギリスがかつてない繁栄を謳歌し、贅沢を知り尽くした、ヴィクトリア女王期に製作されたものです。大型であるのに、繊細で優美な意匠がふんだんに施された逸品。依頼主がこだわりのデザインで、特別に注文したことが推測されます。
幅137センチ、高さ215センチ。頭頂部には、左右対称に、S字型の曲線が広がっています。少し下がって見ると、2羽の優雅な白鳥が羽を休める姿が形づくられており、こういった装飾は、スワンネックペディメント(白鳥の首型の軒蛇腹)と呼ばれます。「白鳥」の名を冠されたキャビネットは、全体にアカンサスの曲線や、ロカイユの優雅なデザインが施され、優美の極致と言えます。円形の透かし模様もめずらしいもので、ヴィクトリア女王が愛した、イギリス伝統のホニトンレースを彷彿とさせます。上下のガラス戸棚に施される、ロカイユとアカンサスが織りなす、危うげで美しい曲線の美。下の戸棚は、左右併せてみると扇のかたちにも見えます。上部を支えるS字型のロカイユの柱。くねる曲線は、獣の脚の優雅さを連想させます。古代神殿の柱、ドーリー型の柱には、球形の彫刻がなされ、優雅で柔らかい印象を与えます。花や葉で彩られた引手、引出をトリミングする曲線の浮彫。蠱惑的なロカイユの鍵穴。繊細なデザインが、緻密に施されていて、この家具の製作者達の高度な技術が所々に見られます。
意匠すべてが、丁寧に作り込まれ、彫刻一つ一つに命が吹き込まれたような素晴らしさ。イギリス伝統のものづくりへのこだわりと、装飾芸術の擁護者たる邸の主とのつながりが実現させた装飾芸術。お部屋に置けば、空間の風格を上げてくれると共に、良い物を次世代へ引き継ぐ大切さを教えてくれます。