19世紀、ドイツ。1830年代以降の産業革命の成功により、膨大な富を有するブルジョワジーが数多く台頭します。1871年には、かつて300の領邦に分裂していたドイツが、プロイセン王国国王ヴィルヘルム1世を皇帝に戴き、ドイツ帝国として建国します。ひとつになることでドイツは国力を充実させ、ヨーロッパに強国として君臨します。
そんな時代の中、教養高いブルジョワ階級の財閥や銀行家の妻たちが、フランス風サロン文化を取り入れていた皇帝に影響を受けて、哲学的な議論や音楽や文学的な会話を楽しむサロン文化を花開かせました。
そのサロン文化の象徴とも言える、貴族趣味の美しいプチポワン刺繍が施されたサロンチェアセット。豊かな経済力を背景に、ゲーテやシラーが育んだ自由な精神に貫かれる知的な世界観。ブラームス、メンデルスゾーン、ワーグナー、シューマン、シュトラウス…綺羅星の様な音楽家達が築き上げたヨーロッパ屈指の音楽的土壌。19世紀ドイツの、豊かで高尚な暮らしが図り知れる、特別な逸品です。
木彫で装飾された教会の椅子、革を張った食堂の椅子、シルク地を張ったフランス風のドローイングルームの椅子………椅子には様々なスタイルがありますが、このように前面に刺繍生地が使われるものは、極めて贅沢です。
本品のようにオリジナルの繊細なプチポワン刺繍が施されたチェアは貴重であり、さらに6脚セットは大変稀少です。
マリーアントワネットの母であるマリーテレジアは、ウイーンのシェーンブルーン宮殿内で貴族の嗜みとして、プチポワン刺繍を広めました。その貴族趣味のプチポワンによるサロンチェア・・・貴族のサロンが繰り広げられたサロンルームの豪華絢爛な室内装飾の中、このサロンチェアセットが気品高く設えていた情景が想起されます。